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月姫 VS ONE



第1話 シエル先輩VSみさき先輩〜カレーの名の元に〜
「カレーが売りきれ……?」 シエルはその時我が耳を疑った。 学食のカレーが売りきれだというのである。 時刻は12時10分。 どう考えても売りきれるような時間ではない。 「遠野くん。これは誰かのわたしに対する挑戦状と取っていいのでしょうか?」 「いや―――俺に聞かれても。そもそも何で俺達制服が違うんですか? この学校にいる人ほとんど知らないんですけど。作者の都合?」 「何をいいやがりますか遠野くん! わたしはこの学校の生徒ですよ? それはもう月姫が完成する前から」 「な、なんですと!?」 「偉大なるニ大神のうちの原画担当の方のONEの同人誌、Friendという作品にわたしと秋葉さんは登場しています。何故か演劇部として、何故か澪さんなどと一緒に。エキストラA、Bともいいますが、あれはどう見てもわたしと秋葉さんなので問題ないでしょう」 「またそういう問題の起こりそうな発言を……」 「そんなことはいいんです! それよりもカレーです! この時間にカレーが売りきれる可能性を満たす事象は一つのみ。つまり犯人は……」 シエルは自分がまだ学食の食事を受け取る場所に立っていて、恐ろしく他の生徒の邪魔になっていることにも気づかずあらぬ方向を指差す。 「川名みさきさん、あなたです!!」 「ふぇ?」 テーブルの三つ先には積まれる皿の山とまだ湯気の立つカツカレーの山。 そしてその中心には渦中の人、川名みさきがいた。 「『ふぇ?』じゃありません!! あなたという人はこの世の万人に食する権利のあるカレーを独占するつもりですか!? 独占禁止法で訴えますよ!」 「先輩、それそういう法律じゃない。それにシエル先輩もメシア……」 ゴシャリ 「遠野くんは黙っていてください!!」 黙っていろも何も彼はもう口を開くこともできない。 「シエルちゃん、何をそんなに怒ってるの?」 「ふぅぅぅううううぅ!! わからない人ですね」 「そんなにカレー食べたいなら一皿あげるよ。そのかわり中華丼買って来てくれると嬉しいかな」 「え……?」 「早くしないと後三皿しかないからすぐ食べ終わっちゃうよ」 ちなみに彼女の脇には17枚の空の皿が置いてある。 「!?」 シエルは走った。 親友(カレー)を守るために。 しかしそこには濁流(人の)が待ちうけていたのである。 「セヴン!! コードスク……」 「やめなさいって」 ポカンと、シエルの頭が小突かれる。 「何を!?」 「何をじゃないでしょうが。カレー一杯のために人殺してどうするの」 そこにいたのはシエルの所属する演劇部の部長深山雪であった。 「これはギャグストーリーだから人は死にません。例え死んでも2秒で生き返るはずです」 「それはメインキャラに限った話でしょうが。もう少しエキストラを大事にしてあげなさい。あなただってFriendじゃ脇役だったんだから」 「しかしこのままではカレーが!」 「そう思って一皿とっておいてあげたから、これを食べなさい。お願いだから昼食の度に死傷者ださないでね」 「深山さん!!」 「抱きつかんでよろしい」 「それじゃ、とりあえずいただきまー……」 ガシャン その時、何かが倒れる音。 ひっくり返った丼。 汁塗れのカレー。 声を出さずあたふたする少女。 「澪!逃げなさい!!」 『え?』 「いいから、そんなものを書いてる暇があったら逃げるのよ!」 雪は丼をぶちまけた少女に対し叫ぶ。 『お前だけ残していくわけには行かないぜ』 「そんな小ネタ使ってなくていいからとっとと逃げなさい! 死にたくないでしょう」 『ネタにはネタで返してくれよ』 「しょうがないわね……。お前といた半年、悪くなかったぜ。逃げろ……、悟飯」 『ピッコロさ〜ん!』 必死にスケッチブックをめくりつつそう書いた後、澪は学食を抜け出した。 なんというか―――流石演劇部である。 ちなみに、シエルの硬直がとけたのは昼休み終了を告げるチャイムの後のことである。



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