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月姫 VS ONE



第2話  翡翠VS里村茜〜だからイヤです〜
翡翠は走っていた。 今朝志貴のために作った菓子が消えてしまったのだ。 少しでも早く食べて欲しくて学校まで来てしまったのが間違いだったのだろうか? トイレに言ってる間下駄箱の上においておいたのが不味かったらしい。 料理がダメでもお菓子ならばと思い、琥珀に頼んで手伝ってもらいクッキーを焼いたのだ。 琥珀は苦笑しながら、 「少し甘すぎるかもね」 と言ったが、翡翠は菓子は甘いものだと思っているので今回は大成功だと思っている。 「あれは!」 中庭に一人座る少女、里村茜。 その横には丁寧に包んだはずのクッキーが開けられ、少女がそれをかじっていた。 「……」 無言で茜を睨みつける翡翠。 「……」 しかしこれまた無言で翡翠を睨み返しながらもくもくとクッキーを食べる茜。 「それは、わたしのクッキーですね?」 「……」 「つまりあなたが犯人というわけですね?」 「……」 「認めないのであれば仕方ありません」 そういうなり翡翠は茜に向かって指をグルグルと廻し出す。 「あなたを―――犯人です!」 「イヤです」 ヒュゥーーー 冬の風が二人の間を通って行く。 「あなたを―――」 「イヤです」 無言で見つめあう二人。 翡翠の顔には明らかな敵意が浮かんでいる。 それと同時に焦りも。 ―――洗脳が通用しない。 それは翡翠を動揺させるのに十分だった。 「美味しいです」 「え……?」 パキッ クッキーが割れる音がかすかに響いた。 「美味しいです」 『美味しい』 そう言われることがどれだけ嬉しいことか。 翡翠はそれまで知らなかった。 コポコポ 茜がポットに紅茶を注ぎ、翡翠に差し出す。 翡翠もクッキーを手にとり、かじる。 「美味しい、ですか?」 「美味しいです」 クッキーはまた作ればいい。 けれど、今この気持ちはこの時でなければ感じられなかった。 二人冬の中クッキーをかじる。 その光景は、まるで十年来の友人が語らうようであった。 ちなみに自信をつけた翡翠がこの後ちょくちょくクッキーをつくり、志貴が3年後あまりにも早い糖尿病にかかるのはまた別のお話。



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