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前の人のセーブデータ



 今日980円で中古のスーファミのRPG(箱なし)を買ってきた。

 別に特に何に引かれたわけでもその作品を知っていたわけでもない。

 単なる衝動買いである。

 まぁやるものもなかったし暇つぶし程度にはなるだろう。

 押入れから暫く使っていなかったスーファミを取り出し、繋がりっぱなしのPS
のコンセントなんかを引きぬいて繋ぎ早速カセットを入れてゲームを始める。

 当然説明書なんて面倒なんで読まない。

 ドットの荒い昔のゲーム独特の画面がテレビに映る。

 これを新しいと思ってた時代もあったな。

 押入れの更に奥にしまわれているファミコンを思い浮かべる。

 オープニングを見ようかとも思ったが長かったのですっとばす。

 すると”はじめから””つづきから”の文字。

 はて?

 俺はつづきからにカーソルを合わせてAボタンを押すとそこにはこれを古本屋に
売ったであろう前の持ち主のデータが残っていた。

 ”たかし””かなみ”恐らく主人公たちの名前であろう。

 四つセーブの場所のあるセーブ画面には全てのセーブ場所にこの二つの名前。

 何だ、やたらと生々しい名前をつけるやつだな。

 セーブ画面に少し映る主人公達の顔を見てもとても日本人の名前が似合うような
顔には見えない。

 しかもPSなら漢字にできてそれならばまだ格好もついただろうが正直平仮名と
いうのはダサすぎる。

 まあ他人の名前のことなんてどうでもいい。

 俺はBボタンを押してセーブ画面から抜け出し”はじめから”を選ぶ。

 暗い音楽とともに世界がどうした、魔王がどうしたなんて話しが続く。

 結構長いオープニング。

 正直俺はこの手のプレイヤーが全く何もできない時間というのが嫌いだ。

 ジャーンジャンジャン

 壮大な音楽がなったかと思えばようやくタイトルが画面に大きく映し出される。

 ―死神は謳う―

 そういえばそんなタイトルだった。

 多くあるソフトの中からこれを選んだのもRPGなのに日本語の名前という少し
珍しいところに無意識のうちに惹かれたのかもしれなかった。

 なんということもなく話しは進む。

 どうやらこの話の主人公は男一人女一人のようでありメインで動かすのも二人の
ようだ。

 正直昨今のRPGから考えればやたらと少ない。

 俺は二人を”グラン””サラサ”というデフォルトのままの名前にした。

 なんということもない普通のRPGだった。

 しかしとりあえず二つ目のダンジョンをクリアしたとき、俺はわが目を疑った。

 サラサが…、死んだのだ。

 これはRPGに良くある戦闘不能、というものとは全く違う、存在そのものの死。

 彼女がグランをかばってボスの攻撃を受けたのである。

 泣くグラン。

 多くのRPGをやってきたがメインキャラがいきなり死ぬのには正直驚いた。

 しかし、レベル69のかなみという名前のサラサをセーブ画面で見ている俺は彼女
が生き帰ることを知っている。

 あークソ!セーブ画面なんかみなきゃ良かった。

 話しの続きがわかってしまってつまらない。

 やるのをやめようか、と思っていた時、更に変な画面が俺の視界に飛びこんでき
た。

 ”サラサに何か言葉を残してください”

 画面は真っ黒くなり、ただまんなかに白いそんな文字が映っている。

 Aボタンを押すと平仮名、カタカナの一覧が出てくる。

 ゲームのキャラに言葉?

 正直このゲームを作った奴はかなり奇抜だなと思いつつも

 ”まもってくれてありがとう。ごめんね。”

 とだけいれておく。

 まあ、だけといっても字数制限が60だからそこまで長い文は入れられないのだけ
れど。

 それから名前の決められないキャラ何人かが仲間になったところで俺はゲームを
切り上げた。

 正直これ程おもしろいとは思わなかった。

 最初はバカにしていたがやってみるとなかなか奥が深い。

 さてレベルも60を超えそろそろ物語も終盤、と言ったところで彼女、サラサは現
れた。

 彼女は死神になっていた。

 といっても世間一般が思い浮かべるような人の命を狩る死神ではなく死後の世界
の安息を守る言わば死後の世界の神様であるらしい。

 どうして彼女がそんな大層なものに選ばれたかについては何の説明もなかった。

 この辺りはやはり90年代のゲームと言わざるを得ないだろう。

 彼女が現れた理由としては魔王が死者を出しすぎるせいで死後の世界のバランス
がとれなくなってるらしい。

 それをなんとかするため死後の世界やってきたのだという。

 再び手をとり供に闘う二人。

 ただグランはサラサを殺してしまった後ろめたさからか素直にまた会えたことを
喜べないらしかった。

 ふぅ。

 流石につかれてきた。

 なんとかなるだろ、と思ってラストダンジョンに入ってしまったのが間違いだっ
た。

 なんともうダンジョンに入ってから3時間。

 その前にやってた時間も合わせると7時間ぶっ続けでやってることになる。

 しかしそれもどうやらここまでのようだ。

 いかにもな扉とその横にセーブポイントがある。

 この扉の向こうに魔王がいるのだろう。

 俺はとりあえずセーブをする。

 このまま続けるか迷ったが先が気になるのでトイレに行ってから続けることにし
た。

「ゆきと、まだゲームやってるのかい?いい加減に……」

「もう少しで終わるから!」

 うるさいお袋をあしらって俺はトイレに急いだ。

 正直ラスボスの魔王はそんなに強くなかった。

 このゲームはどうもボスの強さよりダンジョンのいやらしさのほうに重きを置い
てるらしい。

 エンディングがはじまる。

 サラサは役目が終わったため死後の世界に帰るらしかった。その時……。

 ”まもってくれてありがとう。ごめんね。”

 俺のいれた言葉が黒い画面に映し出される。

 グランがとうとうサラサの前で本当にいいたかった言葉を言う。

 サラサは寂しげに笑って……、消えた。

 その後はグダグダと長いスタッフロール。

 俺はすぐに寝ようかとも思ったがなかなか心にくるものがあったのかすぐにこの
作品から離れる気にはならなかった。

 そこで少し好機心が沸いて出た。

 前ゲームを持ってた人はどんな台詞をいれたのだろう?

 俺はスタッフロールが終わった後再び続きからを選び唯一のこしてあった一番レ
ベルの高い、魔王のいる前のセーブポイントのデータをロードする。

 俺のデータよりもレベルが高かったこともあり簡単に魔王を倒すことが出来た。

 そして、俺はとてつもなく後悔した。

 ”ほんとうに、ほんとにごめん。おれがなさけないから。おれが、おれがこ
ろしたんだ。ごめんかなみ。おにいちゃんをゆるしてくれ。”

 断っておくがグランはサラサの兄などでは無い。

 どうしてかおれにはその言葉が顔も知らない前の持ち主の心からの激白に思えて
仕方が無かった。

 プツッ

 俺はリセットボタンを押す。

 そして、そしてまた”はじめから”を選ぶ。

 コチコチコチ

 ゲームのBGMよりも、どうしてかそんな時計の音のほうが気になった。

 コチコチコチ

 コチコチコチコチ

 俺はセーブをして電源をオフにする。

 セーブ画面にはグラン、サラサ。

 たかし、かなみ

 そして、

 ゆきと、みか



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