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第2章 予兆
「…ん…ま…。……で…て」  ん? な、何だ? 「信也様、朝です。おきて下さい」  ん……。 「信也様、おはようございます」 「あ、ああ」  麻美の夢を見てない?  ……。  ああ、そうか。昨日は『麻美を殺した時の夢を見る』って念じなかったもんな。  けど、代わりに久しぶりな夢を見たな。麻美を殺してしまう前には良く見た夢。  1人で泣いている女の子の夢。 「信也様、朝食できていますのでリビングにお越し下さい」 「ああ」 「はい、それでは冷めないうちにいらして下さいね」  そう言って皐月は部屋から出て行く。  しかし―――しかしなんてすがすがしい朝なんだろう。今までとは天地の差だ。  本当に、あの夢をみないだけでこんなに気持ちのいい朝が迎えられるなんて。  それに、なんでだろう。俺はあの少し悲しい夢がきらいじゃなかった。  一人の少女が泣いているだけの夢が。  ふっと、皐月の顔が頭をよぎる。  そうか、夢だけじゃないかもな。あんな可愛い娘が起こしに着てくれんるんだ。そりゃ、いやで も爽やかな朝になるよなあ。 「信也様ー! ごはんよそっちゃいますよぉ?」  台所から皐月の元気な声が聞こえてくる。 「ああ! 頼む。すぐに行く」  言って俺は皐月の持ってきてくれた制服に袖を通した。 「それじゃ、行って来るよ」  いってきます。こんなことを言うのも二周間ぶり。 「はい、いってらっしゃいませ信也様。これ、鞄です。お弁当、中に入れておきましたから」 「ああ、ありがとう。じゃあ、多分帰りは5時ごろだから。遅れるようなら電話する」  言って俺は扉をあける。こんなにも嬉しいものだろうか。誰かの見送りがあるというのは。 「よう、葵。今日ははやいな」  席に座り横の葵にはなしかける。 「あ、おはよう信也。そうかな? いつもと対してかわらないけど」 「そうか? お前朝弱くて結構ぎりぎりな事も多かったじゃないか?」 「いつの話してるのさ。それ中学の頃のはなしでしょ? 高校はいってからは遅刻なんてしてない よ」 「そうだったかな。まーいいや。うーん。今日はいい天気だな」  クスッと横で葵が笑う。 「なんだよ?」 「ううん。昔の信也にようやく戻ってくれたかなって」  ドクン 「そうか?」 「うん、明るくなった」  それはいいことなのだろうか? 確かに俺は麻美を忘れようとしてしまっている。 「麻美も、きっと喜んでるよ」  ただの1日で。少しの考え方の違いで。  こうも変わるものなのだろうか。  俺は咎人だ。罪を背負えというならば甘んじて受け入れる。  けれど今は、その罪を咎めてくれる相手もいない。  キーンコーンカーンコーン  無機質な音が教室に響き渡る。  ―――さて、今日も一日のはじまりだ。 「信也、今日服買いにいくんだけど付き合ってくれない?」  放課後の喧騒の中葵がそう尋ねてくる。当然特に予定などない。 「駅前か? 別にかまわないが」 「本当!? じゃ、行こう」  言って葵は鞄を持つ。  俺も鞄を持って教室を後にした。 「あはは、結構買っちゃった。信也も買ったねえ。まだ残ってるの? 宝くじあたったやつ」 「まーな。あー、結構遅くなっちまった。皐月が心配してなきゃいいけど……」  言って俺はしまった、と思うがもう遅い。 「皐月? ねえ皐月って誰?」 「ぐっ……」  まいった。非常にまいった。家に住みこみのメイドがいるなんてとてもいえないし、友人の記憶 を操るのはさすがに抵抗があるし……。 「信也? どうして黙ってるの?」  やばい、顔は笑ってるが目がマジだ。  ―――そりゃそうか。麻美っていう恋人が行方不明になってるのに新しい女が家で待ってると知っ たら幼馴染としては許せないか。  本当にどうしよう、と思っていたその時…。 「始めまして。あなたが信也君ですか?」  いきなり眼鏡をかけた金髪の、やたらと美人な女性に声をかけられた。ひとみの色は青。これは 本物の外人だな。しかし、はじめまして、って言われてもな。 「確かに俺は坂口信也ですけど…、アナタは?」  すると彼女はクスッと笑い。 「そのうち分かるわ」  俺には何故だかその微笑が、麻美の人形とかぶってみえた。 「お久しぶりです、死餓夜葵様」<英語になります。 「今は設楽葵だ、気をつけてもらえるか? 死神のリネア・ラァ・ワルガード」<英語 「あら、これは失礼いたしました」<英語  葵と知り合いなのだろか? 英語なのでなにを話してるかわからないが……、しかし何故だろう。 葵が見たことも無いような憎しみのこもった目をしてるのは。 「今日はホーリ−エルフは一緒じゃないのか?」<英語 「兄は今日は別の用がありまして。それに兄の能力は私達と違ってどんなに使っても問題ありませ んから、兄は毎日倒れるまで力を使いつづけてます」<英語 「仕事熱心なことだ」<英語 「ええ、どこかの良家のおぼっちゃまとは違いますので。あ、これは失礼いたしました」<英語  ギリッと葵の歯をくしばる音がここまで聞こえた。  ……?  バカな。他人の歯を食いしばる音なんかが聞こえるはずが。 「失礼ですが今日の要件はそちらのお方にありまして」<英語 「信也を撒き込むのは許さんといったはずだ!」<英語  葵が吠える。  しかし今俺の名前を言ってなかったか? 「おい、葵。一体何の話をしているんだ? この人知り合いか?」 「え、ああ。こいつとは知り合いだが信也には関係のない話だ」  おい、口調が……。 「葵、一体どうしたんだ?」 「うるさい! いいから信也はどこかに行け! 今日はもう帰るんだ!」  そのあまりの葵の必死さに俺は驚き何だかわからないけどここは帰ったほうがいい気がして足を 後ろに向けた、しかし……。 「私たちが話していることを知りたいのならば、そう念じればいいでしょう」  !!!!!!!!!!!!!!!!!!  ドクン  な、何?  ドクン  何故、何故そんなことを知っている!?  ドクン  何故俺が念じれば全て叶うと知っている!?  ドクン  ドクン  ドクン  心臓が破裂しそうなくらいの早鐘を打つ。恐い、恐い、恐い怖い怖い怖い!   コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 「そうやって自分の恋人も殺したんでしょう? 坂口信也君」  プツン 「うわああああああああああああああああああああああああああ!!」  何故、何故知っている!? 全ての人間からあの現場にいた全ての人間からあの記憶は消したは ず。消したはずなのに!!! 「死神貴様!!!」<英語 「あら、どうせいつかは気付くことですし。早いほうが彼のためでしょう?」<英語  ガヤガヤガヤ  横で二人が何か話している、そして俺の叫び声を聞いたからか途端周りが騒がしくなる。けどそ んなことはきにならない。どうすれば、どうすればこの状況から抜け出せる?   どうすれば麻 美を殺したという事実が消える!?  ―――消える?  消えるんじゃない。消すんだろう。  そうだ! 消す、再び消す! 今度は記憶だけじゃなく存在までも消してやる! そうさ! コ ロしてしまえ! 最愛の恋人すらこの手にかけたんだ。いまさら何を恐がる!?そう。  ―コイツラヲコロシテシマ…―  ドンッ 「ウグッ…」  葵の拳が俺の溝落ちにめり込んでいた。何が何やらわからない。一瞬にして、その拳は俺の腹を とらえていた。意識が霞む……。ダ、メ…、だ……。 「わかっただろう? 今君は死ぬ直前だったんだぞ!? 彼は危険すぎる! あまりに危険すぎる んだ!」<英語  最後に葵が女に怒鳴ってるのが見えた。  Dangerous? 危険? それは、俺のこと、か……。  気がつくと、そこは俺の部屋だった。 「いつっ……」  まだ腹が痛んだ。くそっ、一体どうなったんだ? 「信也様、お気づきになられましたか!?」  どうやらずっと横で俺を看病していたらしい皐月が俺に声をかける。 「ああ、一体俺はどうしてここに?」 「僕が運んだんだ」  むくっと痛む腹をこらえベッドから上半身を起こすとそこには 「やぁ。調子はどうだい、信也」  いつもとまるで変わらない葵がいた。 「調子はどうだだと!? 大体これはお前が……」  俺が食って掛かると葵はスッと手を出して。 「わかってる。説明するよ、全部。だから場所をかえないか?」  言って葵は皐月を見る。 「ああ……」  言って俺は立とうとする、が  痛ッ。  まだどうやら痛みがひいてくれない。 「悪い、まだ少し痛むみたいだ。どこかの誰かさんがやたらと強くいれてくれたみたいでな。 ―――悪い皐月。ちょっとこいつと話があるんで席をはずしてもらえるか?」  言うと皐月はたちあが―――らない? 「お断りします」  ………。  何だって? 「すまん、もう1回言ってくれるか」  俺はもう一度確認してみる。 「お断りします、と申し上げました」  やはり聞きまちがいじゃないか。 「どうしてだ? 俺の言うことがきけないのか?」 「失礼ですが、私の存在理由がここを動くなと告げています。ですから、ここを動くことはできま せん」  なんだと?  存在理由が、だって? つまり俺の寂しさを紛らわす、という存在理由に反する。つまりここを されば俺にさらなる悲しみと寂しさが待つってことか? 「信也、無理なら別に僕は無理に話そうとは思わないよ」  葵はそういう。  俺は……。  ―皐月、眠れ―  パタッと皐月がその場に倒れる。 「ゴメンな、皐月」  真実が知りたい。 「隠してるんじゃなかったのかい?  その力は」 「どうせ知っているんだろう? いいさ、いまさら」  さて  ―皐月を畳の部屋の蒲団に寝かせてくれ―  そう念じると皐月が目の前からふっと消える。  これでよし。地べたじゃ可愛そうだからな。 「さて、全てを聞かせてもらえるか?」  俺は言ってギッと葵を睨む。 「まず腹にいれた一撃については謝っておくよ。でも、まだ僕も死にたくないからね」  !?  そうか……、忘れていたけどあの腹の一撃がなければ今ごろ俺は。 「すまない。謝るのはこっちみたいだ。けど、どうしてわかった? 俺がそう念じようとしている ことが。お前も人の心が読めるのか?」 「いいや、僕は信也みたいに何でもできるわけじゃないよ。ただ、凄い殺気を信也から感じてね。 ヤバイって思ったときにはもう体は動いてたよ。もう少し力の加減ができればよかったんだけど、 ゴメン」  言って葵は苦い笑みを浮かべる。  どうしてだろう。もう怒る気も失せてしまった。あまりにも葵がいつもどおりで。 「信也」 「ん?」 「今日のことは……、今日のことは、お互い無かったことにできないかな!? お互い知らなかっ たことにはできないのかな!?」  泣いて、るのか。 「……」 「……」  沈黙。それは、ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染の悲痛な願い。 「悪い……。お互いの記憶から今日のことを消すのはたやすい。けれど、俺はどうしてもしりたい!  どうして俺がこんな力を持ってるのか? どうして俺が麻美を殺してしまったのか!?」 「―――わかったよ。ここまできて話さないってわけにもいかないよね? 話すよ、全部。ただ、 1つだけ約束して欲しい。それが、今の僕の本当に全ての願いだから」 「ああ、なんだ?」 「全部知ったあとも、僕の友達でいて欲しいんだ。凄く勝手なお願いだってわかってる!でも、で も……。僕にはもう、信也しかいないんだ」  こいつは……。 「バカだな。それはこっちがお願いしたいぐらいだよ」 「え……?」 「あのなあ、俺は麻美を殺しちまったことずっと黙ってたんだぞ? お前それにたいして怒ったり りしないのかよ?」 「ああ、あれは結構早くからわかってたから」 「そうなのか……。どうしてお前は―――、と。やっぱいい。始めてくれ。それでわかるんだろう?  全部」 「うん…。まず一番はじめに言わなきゃいけないこと。それは…、それは、僕が人間じゃないって ことだ」  人間じゃ、ない? 「おいっ! 一体どういうことだそれ?」 「論より証拠、だね。ちょっと待って」  言って葵は服を脱ぎ始める。 「おい、一体何を!?」  !!!!?  葵の腹にはすさまじい傷痕があった。知らなかった。中学のころは無かったはずだ。一緒にプー ルにも入ってた。 「確かに凄い傷だな。でもだからってお前が……」 「別にこの傷をみせようと思って服を脱いだんじゃないよ。ただ服がないほうがわかりやすいあと 思ってね」  グゴッ  変な音が聞こえた、かと思うと目の前の葵はいつのまにか……。 「葵、お前……」 「―――うん。これでわかったでしょ? 僕は人間じゃないんだ」  目の前の葵は、なんというか、女になってしまった。大きいとは言えないが胸は膨らんでいるし もともと優男だったのが更に華奢になっている。 「お前、両方の性別があるってことか?」 「え……? もう、やだなぁ信也! どこ見てるんだよ! 頭とか手とか見てよ!」  言って葵ははずかしそうにバッと自分の服で胸を隠す。  頭に、手? ……ああ!! 「角!? それに爪か!」 「そう、僕は鬼なんだ。なんでも女鬼という種族らしくて。最初に先祖が鬼になったのが女性だっ たからだったかな? 詳しくはわからないんだけど、家の一族から鬼が出ると必ず女性になるんだ。 変化している時はね。中学1年の時だよ。僕が鬼になったのは」  なった? 「なったってのはどういうことだ?」 「多分信也のその力と同じ。ある日急にね。まあ体が女の子になっちゃうのは驚いたけど……」  言って葵は後ろを向いて服を着る。 「ってことはお前は何で自分が鬼になったのか知ってるのか? 俺がどうしてこんな力を持ったの かも!?」 「うん。それより1つ聞きたいんだけど、信也はその力を使って一体何人くらいの人を殺したの?」  ………………………………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………………………………………………………… ………………………………・・ 「誰が人なんか殺すかあ!! お前は俺をなんだと思ってるんだ! 麻美のだって、あれは一種の 事故だったんだ!」 「え!? 本当に信也は人を殺してないの!?」 「当たり前だ! 人を殺人狂みたいに言うな!」  何をいきなりいいだすんだ、こいつは!? 俺をそんな目で見てたのか? 全く……。 「本当、に?」  泣いている。葵が。  ドキン  ふいに胸が高鳴った。目の前の葵が。角の生えた、自らを鬼という、普段は男である少女があま りにもきれいに見えて。 「ああ、本当だ……」  グッと葵は涙をぬぐう。 「やめよう、信也」 「はぁ?」 「この話はやめよう。信也は僕達とは違う。まだ、その力を極力使わなければ人間でいられる」 「どういうことだよ、それ!?」 「お願い。我侭なのはわかってる。それでも、この話はもうやめよう」  また、葵の瞳から涙がこぼれる。 「わかった、ただ1つだけ確認させろ」  再び葵はグッと涙をぬぐい。 「わかった。何?」 「お前は俺の親友の、設楽葵だな?」 「う、うん。信也さえ許してくれるなら」 「今まで俺や麻美と過していた時間はウソじゃないんだな?」 「うん、黙ってたこともあるけど……」 「隠し事ぐらい誰にでもある! 第一俺もこの力のことをお前に黙ってた」 「うん。あの時間はウソじゃない! それは断言できるよ」 「何だ。じゃあ人間じゃないか、お前」 「え?」  葵がほうけた声をあげる。 「あの時間が本物ならお前は人間さ。例え裏の顔があったとしても人間じゃない奴にあんな時間は すごせやしない。お前は俺は僕達と違うっていったがよ、俺がそいつらと違うってことはお前もそ の僕達の『達』のヤツラとは違うこっちがわの人間ってことさ。だって、俺とお前の一体どこがち がうってんだ?」 「でも、僕は沢山の人をこれまで……」  俺は右手を前に出して葵の言葉をさえぎる。  さっき俺にした質問と、葵が実際に鬼であるということを考えれば葵の言いたいことは簡単に想 像がつく。 「俺も、麻美を殺した」 「でも、それは事故なんじゃ?」 「ああ、事故っていえば事故かもしれない。けど、俺は事実人を殺した。だから俺は人間じゃない のか? 冗談じゃない! 俺は人間だ! いや、別に人間じゃなくてもかまわない。だがな、俺が 気に食わねえのは、さっきから俺とお前が違うって言ってることだ!」 「あ……」 「俺はな、好きだぜ、おまえのこと。だから、違うなんていうな……。まだ俺は戻れる?じゃあお 前はもう戻れないって言うのか? ふざけるな! なら戻れるように努力しやがれ! 簡単に諦め てんじゃねえ! てめえ、それでもこの俺の親友かよ!?」 「信也―――信也ああああああああ!」  葵が俺の胸に崩れこんでくる。 「僕、恐かった。恐かった。恐かった。恐かった」 「ああ、わかった。わかったって」  言って俺は葵の頭をなでる。頭に生える角を避けながら……。 「グスッ。ごめんね。落ちついたよ」 「ああ、そうか? じゃあ悪いが離れてくれるか? 男の姿だと気色悪いだろうが今のお前だと変 な気分になっちまうんでな」 「別にいいよ、信也になら……」  バッ  俺は葵を突き飛ばす。 「いったあ。何するんだよ信也」 「気色悪いわ! 帰れ!」 「何だよ、いつもの冗談じゃないか」  その姿だと冗談になんねえんだって。 「ま、いいや。ありがとう信也。それじゃ、また明日」 「ああ。じゃあな」  言って葵は背を向ける。 「心、読まないの?」 「ん?」 「僕に黙ってても信実が知りたいって念じて、僕の心を読めばいいじゃないか」 「俺はな、恋人を殺しちまった最低な男でも、親友の心を覗くような外道にはなりたくないんだよ」 「そっか」 「それにしても何で俺がそう念じてないってわかったんだ?」 「さっきあのメイドの子に力を使ったでしょ? その時空気に違和感があったからね。あの後はそ の違和感はなかったから。僕、人よりも遥に感覚が優れてるからね」 「そうか」 「あの子、信也が創ったでしょ?」 「ああ……」 「いい娘だね。大事にしなよ」 「お前は、あいつを人形とけなさないのか?」 「とんでもない! だって信也の家族でしょ?」  家族……。 「ああ、そうだな」 「それに穢れた手を持つ人間よりも、人形のほうがよっぽどステキさ」 「かもな。正直俺にもあいつは眩しすぎる」 「その様子なら大丈夫そうだね。それじゃ今度こそ、また、明日」 「ああ」  ガチャッと葵が扉を開ける。 「どうでもいいが……」  ん? と葵がふりかえる。 「その格好で外に出る気か?」 「あああ!! 忘れてた! ありがとう信也!」  言うと葵はすっと目を閉じる。  ははっ、やっぱこいつは俺の親友の佐藤葵だ。  今度は音もせずに葵はいつもの葵に戻っていた。 「じゃ、今度こそ、今度こそ本当にまた明日ね」 「ああ」 「じゃ」  言って部屋の外に出る葵。 「ああ、そうだ。ちょっと待て、葵」 「まだなんかあった? 何?」  葵がひょこっと部屋に顔を出す。 「何でもねえよ」 「……」  固まる葵。 「もう!! 帰る!!」 「はっはっは! 気をつけて帰れよ」 「信也なんかしらない!」  バタンッ  玄関のドアが  勢い良くしまる音。  正直わからないことだらけだった。  結局俺がどうしてこんな能力を持ったのか。  葵はどうして鬼になったのか。  何もわかってはいない。  けど、だけど……。



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