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〜満月の夜〜


 いつも通り、ホテルでヘヤを取る。
 アルクェイドが全部金を出してくれるので金の心配はないのだが、ヒモのようで少しだけなんとも言えない気分にいつもなる。
「ね、志貴。この部屋月が良く見える。いい部屋だね」
 言われて19階の窓から外に目を向ければ、確かに綺麗な満月が浮かんでいた。
「そうだな。指定したわけじゃないけどいいところにあたった」
「うーん。いつも一つのフロア丸ごと借りちゃえばいいって言ってるのに」
「お金は無駄に使うものじゃないの。いつも言ってるだろ?」
「まあ、そうだけどさ。たまに外の見えない部屋とかもあって、なんかイヤなんだもん」
 プゥッと頬を膨らませるアルクェイド。
「でも今日はいい部屋じゃないか。いつもいい部屋を自分で選ぶよりも、今日はどうかな、って考えたほうが面白いさ」
「うん。私は志貴のそういうところ好きだよ」
 言ってベッドに倒れこむ。
「ね、今日満月だね?」
 アルクェイドが微笑む。
 その理由はわかっている。
 俺だって、楽しみにしていなかったわけじゃない。
「そうだな」
 そう言って俺も微笑む。
 俺とアルクェイドで決めた決まりごと。

 満月の夜に愛し合う。

 それは確か美咲町を出たときに決めたことだったと思う。
 飽きが来るとか、そんなことは絶対にない。
 けれどそうしたケジメというか、なんと言うか……。
 そういうものがあったほうがお互いよりその時と、それを待つときが充実するってことがわかったから。
 もう一度目を合わせ微笑みあったあと、俺はアルクェイドに口付けた。
「―――んっ」
 唇が触れるだけのキスをして離し、すぐにもう一度口付ける。
 それが合図であるかのように、今度は舌をアルクェイドの中に入れ込む。
「んッ……、ハァ――――ふゥ」
 ピチャという音が口の間から聞こえてくる。
 最初はお互いの歯の手前。
 本当に少しだけ舌を出し合ってそれをついばむ程度。
 目を閉じているからだろうか。
 キスというのは行為そのものとは違う独特な快感が存在する。
 アルクェイドの舌。
 アルクェイドの唇。
 アルクェイドの口内。
 暗闇の中、想像だけが掻き立てられる。
 ピチャリ……
 その音は俺の唾液が生み出したものか。
 それとも彼女の唾液が生み出したものか。
 二人のそれが混ざり合って初めて鳴った音なのか。
 俺はゆっくりと目を開ける。
 アルクェイドの顔が見える。
 目を閉じていて、ただ行為に没頭しているというその表情。
 アルクェイドの舌が俺の歯に当たった瞬間、俺はその舌を吸いこんだ。
 ズルッ
 空気が一緒に入りこんで、小さくだけれどイヤらしい音が立った。
 アルクェイドの目が開かれる。
 俺が目を開けていたことにたいしての非難の目。
 今度は逃げるように俺がまた目を瞑ってしまう。
 そしてアルクェイドの舌に意識を集中――――、しようと思ったら、彼女の舌は引っ込んでしまった。
 目を開けていたことで機嫌を損ねたのだろうか。
 そんなところさえ可愛いと思ってしまう俺は、随分と前からこいつにいかれきっているんだろう。
 今度は俺が舌を差し込んで、アルクェイドの閉じられた歯に舌先をコンコン、と当てる。
『おいでおいで』
 それでも彼女の歯は開かれない。
 仕方ないから俺は彼女の歯をなぞることにする。
 まずは右側へ。奥へと進もうとすると、自然とアルクェイドの歯と俺の舌がピッタリとくっつく。暗闇の中で想像するその光景はやけに感応的だ。
 一つ一つの歯の上下を愛撫するように軽く上下に動かしながら中央へ。
 今度は左側へ向かって同じことを繰り返す。
 それでもアルクェイドは歯を閉じたままだ。
 手を使って他の個所を愛撫してしまえば話しは簡単なのだが、それはなんだか負けな気がする。
 俺は一度舌を自分の口に戻して、一杯に溜まった唾液をアルクェイドに注ぎ込む。
 トロリ、と音がしたような気がする。
 アルクェイドの顎にかけていたてに液体が触れる感覚。
 溢れた唾液がアルクェイドの口の端から垂れている姿を想像すると、俺はもう我慢できなくなってしまう。
 歯の外側に溜まった唾液をそのままにすれば、口から次々とあふれてしまう。それを受け入れるために歯が開かれるその一瞬―――俺は舌をアルクェイドの中にさしこんだ。
 一度開かれた門は再び閉じない。
 むしろ向こうからこちらの門をに入って来る。
 チャピ―――チュプ
 音を立て、アルクェイドと激しく求め合う。
 こうなってしまうとヤメ時が難しい。
 いつまででも続けていたいけれど、俺のほうはアルクェイドと違ってだんだん息が苦しくなってくる。
 二人の舌が互いの口に戻った瞬間、俺は口を離した。
「――――はぁ」
「ご、ごめんね志貴。無理させちゃったかな?」
「大丈夫だって。悪いな、けど少しだけ休ませてくれるか」
「うん。じゃ―――準備しておくね」
 言ってアルクェイドは上着を脱ぐ。
 下から覗く白い白いブラ。
 スカートを外す。
 ブラとセットの白い下着が見える。
 そうして少し恥ずかしそうに、彼女はベッドの上に座った。
 俺も上着を脱ぐ。
 それに合わせてアルクェイドはブラを外す。
 俺がメガネに手をかける。
 そして、少しためらってアルクェイドは最後の一枚も取り去る。
「ありがとう」
 いつかアルクェイドに言ったセリフ。
 でも、何度でも言ってあげたいし、いいたい。
 ベッドに、床に、テーブルに……。あらゆるものに線が見える。
 ――――けれど。
「お前の身体と月だけには、俺の眼にも何も映らない。きっと、お前は俺のために産まれてきてくれたんだ」
 それが、満月の夜を抱くときに選んだ理由。
 日に日に強さを増していく俺の魔眼は月が見えない状態では、夜でもアルクェイドに薄い線が見えてしまう。
「それでいいよ。私には線も点も見えないんだから、志貴は私だけを見ればいいよ」
 そうしてもう一度軽いキスをする。

 ――――ああ、レンズ越しでなく愛する人を見れること。
 それが、俺にとってこんなに嬉しいことだとは思わなかった。

《《『空の月』メインストーリーより抜粋》》


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